路上日記/野村誠

April 27, 2006 music / on-the-road

作曲家野村誠がロンドンの留学から帰り、思春期の都市「東京」で始めた鍵盤ハーモニカの路上演奏。その日記(96/6/20~99/4/10)とCDのセット。

山手線のほぼ全駅に渡って、そこで知りあった人を巻き込みながら、雨の日も路上で鍵盤ハーモニカを吹く。反応のいい日も、悪い日も、楽しいハプニングも、嫌な思いも。道行く人たちと鍵盤ハーモニカをきっかけに始るコミュニケーションの様子はどれも面白くて、一気に読んでしまった。

プロの作曲家である野村誠が、サザエさんのテーマ、イパネマの娘から武満徹、ベートーヴェン『テンペスト・第3楽章』まで知っている曲ならなんでも「鍵盤ハーモニカ」という子供のものと思われている楽器で演奏してしまう。

なかでも中野駅北口でのおじさんとのやりとりは見物だ。

お前たち、一体何なんだ?何のためにやっているんだ?宗教なのか!

なんで、『サザエさん』なんだ。お前たちは、『サザエさん』の宣伝をしているのか。何なんだ、お前たちの主張は。

野村はこう見えて、表現の幅の広い、いい楽器なんですよ。とサザエさんのテーマをおじさんに演奏する。


ノリの悪い日も、みんなが知っているサザエさんのテーマを吹けば、人は止まってくれた。

おじさんが、『別の楽器を入れなきゃ......』って言ってくれたように、興味のある人が、意見を言ってくれたりするでしょ。さっきだって、『薔薇が咲いた』をリクエストされて、なるほど『薔薇が咲いた』って名曲だなあって発見したりして。そうやって、道で演奏して、興味を持った人と、意見のやりとりしたりして、この楽器で、路上で、どんな音楽ができるのか、一緒に見つけていきたいんですよ。

相手の目を見てそう話す。

分かった。じゃあ、お前たちがそうやって、見つけてきた、一番これだ、と思うものをやってみろ。

そこで、野村が吹くのは... やっぱり『サザエさん』だ。そして、その真剣さはおじさんにも通じる。

野村誠といえば、以前僕も「アートという戦場、サラエボという戦場」で触れたように、最近では子供や老人、障害者たちとの共同作曲ワークショップが有名だが、それによっての誤解も多いようだ。

この自身のはてなダイアリーのプロフィールでも書いてあることは、子供のワークショップをよくやるアーティストの多くにとって、結構本音であるようにも思う。

ありがとう。でも、僕、音楽に人生捧げてますから。
野村誠がこう言うように、僕はいえるだろうか?
「ありがとう。でも、僕、美術に人生捧げてますから。」


この本とCD、残念ながら出版元のペヨトル工房の出版停止により、かなり手に入りにくい状況になってしまっている。
ペヨトルファン/PEYOTL FAN」と言うページで、ペヨトル工房の書籍を扱っている書店のリストが挙がっているが、ぱっと見たところ、「路上日記」はあまり無い模様。本屋で見つけたら即買い!

Posted by Kei at 5:04 PM

Tags: , , , , ,

  • ソーシャル・ウェブ入門を読む

    December 3, 2007 wwweb

    「ソーシャル・ウェブ入門—Google、mixi、ブログ…新しいWeb世界の歩き方」滑川 海彦技術評論社ちょっと遅いけれど、ソーシャル・ウェブ入門を読了。

  • 『数学ガール』を読んで諸々(学ぶこと)

    August 13, 2007 others

    数学に限らず、何かを学ぶことに対しての苦手意識というのは、本当は納得できていないことを「公式だから」とか、授業の進行だからとかでちゃんとクリアにできないまま進んでいくことに原因があるというのはよくある話し。そこを要領良くスムースに通過できてももっと先で、その本質への理解度というのはずっと影響してくる。

  • カタログ "Rachel Whiteread: Transient Spaces"

    July 2, 2007 art

    作品が作品(石膏を使った巨大な彫刻というか、建造物とも言えるインスタレーション)なので一つの作品の制作過程の記録がほとんどで、その分これまでの作品に対しての論述やそれまでの美術史中の作品との面白い比較がいくつもなされている。

Comments

Post a comment

Trackback

Trackback URL : http://www.add-info.com/mt/add070502-trkbk.cgi/1032

top