ここのところ、あちこちで静かな話題になっている、吾妻ひでおの「失踪日記」。不条理、SF、ちょいエロな漫画家、吾妻ひでおが家族と原稿を捨てて失踪してからの、何も起こらないようで充実した日々を綴ったノンフィクション日記なのだが、これがかなり面白い。失踪した吾妻はすぐに金も尽き、いわゆる「ホームレス」として暮らすわけだが、その暮らしのなかでの食事を吾妻に倣って拾ってみたい。
- 失踪1度目の食事
- みかん(ワナの中のえさ)、野生?のダイコン、チーズ(ホームレスからかっぱらった)、天プラ油(デザート)、ビックリマンチョコ(シールを抜いた後の)、料亭の沢庵、うどん(タバコ、ライター入り)、ラーメン(1時間かかって生煮)
- 失踪2度目の食事
- ブタ肉のアブラ身(ラーメンのスープとり後)、焼き肉(花見客の置いてったものを炭火で)…
その後は肉体労働を始めるので普通に。
吾妻の失踪もホームレスの食事も本当はマンガに描かれているような、楽しい笑い飛ばせるようなものでは決してないのだが、本人の以下の言葉の通り、あまり悲惨なものと捉えすぎないで一つのマンガとして、ノンフィクションとして、サバイバルガイドとして笑って読むのが礼儀。
そういうのをギャグにしちゃわないで、パンツの中まで見せて、ドロドロした部分もさらけ出したほうが凄いとか言われがちじゃないですか。評論家とか、実作者でも。「作家たるもの」みたいなね。僕はそれ、絶対に違うと思うんです。それを一旦ギャグにして出すという、その辛さ、芸として見せることのほうがいかに大変なことかと思うんですけれど。
「失踪日記」巻末対談
確かに。そんな日々で雪景色や土から出てくるタケノコにはっとさせられる場面なんかはやワーズワースにも通じる(?)かも知れない。
それにしても人間はたくましいな。自分はテンプラ油をデザートとしておいしく戴けるだろうか。本職のホームレスから食べ物をパクれるだろうか。ハリウッドセレブのマクロビオティックとかLOHASとかどうなんでしょう?
吾妻ひでおの世界については1995年刊の「別冊宝島EX マンガの読み方」で夏目房之介が解説しているので、持っている人は「街を歩く」編と併せて読むとさらに面白いかも。また帯は菊地成孔が書いている。おすすめ。
Similar Posts:
- None Found
引用してある部分は、吾妻さんの発言ではなくてとり・みきさんのですね。
はい、そうですね、確認してみたらしゃべってるのはとり・みきさんでした。が、吾妻さんもほぼ同意してますね。
「悲惨な状況でも、どっか自分を笑ってるんでしょうね。」
ちょっとあいまいだったかも知れませんね。
僕も最近読みました。
吾妻ひでおは高校生の頃片っ端から読んでいたのですが、彼にしか描けない、記号的であるのにリアリティが欠落しない不条理とエロが「失踪日記」で如何なく発揮されてるように思いました。
僕はそんなにちゃんと読んだことなかったんだけど、上に紹介した「別冊宝島EX マンガの読み方」で、あらためて見たら、面白かったんだよね。ちょうど去年のアートパスの時、雨降るM1でこたつに入りながら読んでて。それもちょっと「失踪」ぽい。