今だから、カラーネガプリント

基礎からはじめるプロのためのカラーネガプリント (大型本) 玄光社のコマーシャルフォトシリーズ、久々の新刊は「基礎から始める、プロのためのカラープリント」。

SHARP AQUOS の藤井保、SUNTORY 烏龍茶の上田義彦、ホンマタカシといった写真家たちのカラーネガ自家プリントへの思いやノウハウ、使用機材といったものから、プロ・プリンターによるプリント作業の実際の解説などカラープリントに興味を持っている人、手を出してはみたけれどそれ以上はてっきり… という人には面白いし使える、非デジタル派、銀塩好きには本当に久しぶりの使える本。

デジタルカメラ、インクジェットプリントが全盛の今、正反対の「カラーネガプリント」について本として出たことが、嬉しくもあるが余計な心配をしてしまったりもする。職業写真家のコマーシャル仕事の多くはデジタルでデータ入稿、今までは経験と「バラし」がものを言った色温度/露出の読みやフィルターワークもPhotoshopによって、写真を撮ったことのない編集者でもある程度の調整が出来て、一般の人でもコンパクトデジタルカメラで「写るんです」よりも気軽にハズレのない写真が撮れて、自宅でA4まで綺麗に伸ばせる""である。

冒頭の特集の目玉である上田さんの最新の展覧会も展示のプリントはEPSONの協力によるインクジェット出力である。正直そのプリントはまだ「インクジェット」らしい質感が気にはなるものの、色彩と階調の表現、再現は豊かなもので、表現手段の一つとしての甘さやお手軽感なんてものは微塵も感じないものだ。そもそも「インクジェットらしさ」というのも、今までのプリントとの一元的な比較で考えるよりもオリジナルな独自の質感として捉えた方がいいところまで来ていると思う。

でも、それでも、「カラーネガプリント」なのである。多くの人は街の短時間・格安・同時プリントしか経験がないものかも知れないが、写真展できちんと丁寧にプリントされたクオリティーの高いオリジナルプリントを目にした人や、自分で実際に焼いたことのある人にとっては、それはとてもワクワクする、可能性のある経験だと思う。思い通りに焼くためにはとてつもない時間と温度や露出の管理、コストといった今のかんたんなデジタルプリント作業と比べるとありえないくらいの手間がかかるけれど、時間をかけて自分のイメージ通りの映像を、自分の手で焼き付けて、定着させることの充実感というのは他の何にも代えられないものだ。時間とコストと「失敗しないこと」が大前提のコマーシャル仕事の多い写真が今でも自分の「作品仕事」に「カラーネガプリント」を選ぶ理由もそこにあると思う。

印刷仕事にはリバーサルが当たり前だった時代からデジタル一眼でデータ入稿が当たり前の時代。写真家の仕事の多くが、印刷媒体から消費者のカラーバランスのとれていないいい加減な色再現でしかないディスプレイへ移行しつつある時代。そんな中でもSHARPのAQUOSや、SUNTORYの烏龍茶のイメージングが「カラーネガプリント」を選択して作られていることにあらためて、感じ入った。

デジタルでも銀塩でも「写真」に普通以上に興味を持っている人には是非手に取って見てもらいたいと思う。普通の人に見えにくい「写真家の仕事」の一部はここにある。

アグファが倒産、フジのフィルムの多くが値上げ、カメラメーカーのほとんどがフィルムカメラからの撤退を発表するなか、こういう本が出版されることは一部の好事家が喜ぶ以上の意義があると思いたい。今さらだけど、カラーネガが被写体、色を持った世界の情報をあの薄いフィルムと感剤によって定着できる仕組みというのはとてもすごいことだと思う。CCDが何百万画素とかよりも全然すごい。

写真を、とろう。

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