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ついに100巻にも到達した美味しんぼ。長寿とはいえど、その100巻のAmazonのレビューをみるとファンとしてはとても淋しいものがある。
その美味しんぼをテーマ毎に再構成したア・ラ・カルトシリーズの最新刊No.38、美味しんぼア・ラ・カルト 38 「食の冒険」が書店に並んでいたのでいつものように購入したのだが、こっちは面白い。出てくる料理からして、
- 小鮫のソテーのオレンジソースがけ
- 茹でエイの温かいドレッシング和え
- ウィチェッティ・グラブ(芋虫)のバター焼き
- 黒ナマコとゴボウの煮物
- 亀の手の塩茹で
などなど。いつもの至高と究極のメニューとは異質なものが並ぶ。
このア・ラ・カルトの中でのハイライトは第4話の「ベトナムの卵(単行本66集収録)」。メインの料理はベトナムで食べられているホビロンというもの。ホビロンについては以下を見るとわかるが、苦手な人は無理に見ることをすすめない。
この料理を食べる事になるエピソードは日米お互いの食文化の理解不足からの衝突で、いつも通り山岡がその解決に奔走する。
ダグラス!君は典型的な思い上がったアメリカ人だ!!
何もかも自分たちの尺度に合わせて見ることしかできず、他国の文化を理解しようとしない!日本はコネの国だとか、日本の男は女性を対等に扱わないとか、日本には香りの文化がないとか、日本に不当な偏見を抱いている!
その上、生卵や鯨を食べるのが野蛮だなんて、先住民から力ずくでアメリカ大陸を奪って国を建てた君たちには、言われたくないね!
美味しんぼア・ラ・カルト 38 「食の冒険」P.179 での団社長
こういう不毛な場面に実際に出くわすことは多々ある。
それでこういうものを作ったこともある。
その他この辺りも。
- Stolen Moments: バッタを食べた。
- Stolen Moments: 続・バッタを食べた。
- Stolen Moments: i ate these.
- Stolen Moments: Strange Food from Berlin
美味しんぼに戻るが、団社長とアメリカ人ダグラスの件で直接の原因となった「卵の生食」に対して、山岡が用意したものはベトナムで食べられる「孵化しかけの卵=ホビロン」というわけだ。こう考えると対比の構図としてはわかりやすすぎるくらいだが、この卵を目の当たりにすると、日本人の団も食べられないばかりか、同じ口でこう言う。
孵化しかけた卵を食べるなんて、残虐だよ、醜悪だよ、無神経だよ、悪趣味すぎるよ!
と、これからはいつもの美味しんぼ・山岡メソッドでうまく解決していくわけだが、そこはあくまでマンガだからでもある。
美味しんぼア・ラ・カルトには必ず途中で原作の雁屋哲のコラムが挿入されるわけだが、目から鱗な話しや食に対する造詣の深さが感じられるエピソードが多い中、雁屋自身の偏見に不愉快を感じることも少なくない。上のベトナムの卵の回にしても明快な対比と相似の構造で問題を解決してみせ、実際中で語られるそれぞれのキャラクターの言葉にはとても大事なセリフも多いのだが、そのまとめる手振りにたいしては何かしっくり来ない点があるのも事実。
ここで冒頭で触れたAmazonの100巻のレビューをもう一度読むと、もう一つ似た構図が明確に見えてくる。
時間軸を飛ばして、料理のテーマにより再構成されたア・ラ・カルトシリーズの面白い点は、そういう変化(あるいは変わってない?)も読み取れるところかも知れない。山岡と栗田。父子の和解。間違いなく魅力的なキャラクター達の関係が時間をかけてゆっくりと変わっていく軸。下手で乱暴な画風が上手くはないが紛れもない美味しんぼの絵に変わっていき、そして明らかにアシの手による全然タッチの違う人物が増えていく軸。食に対する造詣の深さがマンネリ化、またはネタ切れしていくのか、それとも一般層の食生活の幅が拡がったのか。いろいろなものが各巻のなかに偏在している。
そういえば、今日の昼にはとろとろふわふわ卵のオムライスを食べたのだが、あんなグロテスクなおいしい食べものはなかなかないですね。
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