June 14, 2007

デザイン言語2.0「日本料理をデザインする」  review

デザイン言語2.0 —インタラクションの思考法デザイン言語2.0 —インタラクションの思考法
編: 脇田 玲、奥出 直人
慶應義塾大学出版会

「デザイン言語」というのは、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の基礎カリキュラムの総称とのこと。その中で行われてきたゲストのレクチャー「デザイン言語総合講座」2004〜2005年分からまとめられたのが本書である。初刷は2006年、もう昨年である。タイトルに付けられた「2.0」という言葉に対して感じる感覚というのは、この本の出版当時と今では変わってきているが、昨年出た当時でも少々安易な印象を受けた。しかしその内容はとても充実している。

原研哉の「HAPTIC」は

デザインという概念は特別な才能を示すものではなく、ジェネラルな存在であると考えており、それが社会の中でどのような「たたずまい」をしているかということが気になるわけです。
 その意味で、昨今、デザインと呼ばれているものとデザインの本質がずいぶん乖離してしまっていることが気になります。たとえば「デザイナーズ・マンション」や「デザイン家電」などの言葉が流通すると少し心配になるのです。

原研哉「HAPTIC」

という書き出しから進められていくが、この回が問いかけている問題というのが、この本のあり方自体に対しての内部からの問いかけになっていて、またその他のゲストの回もそれぞれに「2.0」という無理なまとめを逸脱しているところをとても面白く感じた。

ゲストは原研哉、山中俊治、水口哲也、永原康史といった「デザイン」というイメージに近い人たちから、清水秀彦「フットボールデザイン」、小林正弘「形成外科のデザイン」、柳原一成「日本料理をデザインする」と幅広く選ばれている。

それぞれ感じるところは大きいのだけれど、.automeal的にはやはり柳原一成「日本料理をデザインする」を採り上げたい。


近茶流宗家 柳原一成。東京・赤坂にて「柳原料理教室」主宰。
日本料理は比較的「デザイン」との関係がイメージしやすいが、柳原は味のデザイン、料理のデザインということを「味良く、食べ良く、姿良く」整えることとする。膳組と料理の献立による「膳立」というのも言われてみて、ああそうかと目からうろこの落ちる思いだったが、特に面白く思ったのが、「日本は水性文化圏」という捉え方だ。

 外国の料理は「油の料理」で、オリーブオイル、ヘッド、ラード、ココナツオイル、胡麻油などで素材を処理します。一方、日本の料理は「水の料理」です。日本は幸いにして、おいしい水を豊富に持った国なのです。

柳原一成「日本料理をデザインする」

そして、包丁を作る過程の焼き入れにもその違いがあると言う。焼きを入れた熱い包丁を水に入れて鍛える和包丁と、高温になる油で鍛える洋包丁。その切れ味、持ち味にも食文化や経験、土壌といったものが関係している。もちろん料理の下処理、工程などにもその「水と油」の差はあらわれてくるのだが、それが日本料理の「背を高く立体的につんもりと立ち上がるように盛」られる構造、立体的な組み立ての大きな理由だという。

身の回りにあるものは、すべてデザインされている。意識されないデザインも、経験がデザインしたものもすべて「デザインされた」ものである。普段は気にとめもしないその優れた「デザイン」を丹念にひろい、すくいあげていくのも優れたデザイナーの仕事なのだと思う。

 私は日本というアジアの東の端でデザインを行なっています。日本の文化はどちらかというと色や形をコントロールする文化ではなく、ある事象、たとえば自然の事象や目の前で起こっているささやかなことを見つめてきた文化です。ささやかではあるが、決定的な美をそこに見て、それをそのまま「いかがですか」と人々に提示する。

原研哉「HAPTIC」

日本料理の文化を伝える柳原一成とデザイナー原研哉のこの根本の視線のあり方のリンク。それは少しも「2.0」的なものでも新しいものでもないが、そういう眼と手を自分も常に大事に持っていたいと思った。

投稿者 Kei : June 14, 2007 11:57 PM

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