May 5, 2005

料理とサイエンス  Art / セレブシェフ

今出ている「BRUTUS 5/15号 21世紀料理教室」が面白い。

  • 018 ダニエル・ガルシアの液体窒素料理。
  • 022 エルヴェ・ティス教授の分子料理法。

そこからいくつか抜き出し、簡単な考察をしてみる。

液体窒素

「アンダルシアのイマジネーション」、ダニエル・ガルシアお得意の液体窒素を使った料理の世界。

最近、子供にも大人にも人気のある科学実験で定番の液体窒素。1気圧での沸点が-195.802℃で自然な状態ではもちろん気体の窒素。「何でも瞬時に凍らせられるから」ということでガルシアは使い始めたそうだ。食感や温度を変えられることと、その舞台のスモークのような効果を生み出すそれは料理に新鮮さを与え、食材をそれ自体のアフォーダンスから解放した。

液体窒素自体は日本でも業者などで購入可能。「取り扱いには資格が必要」との噂もあるが、実際には必須ではないらしい。ただ扱いには厳重な注意とその高圧に耐えられる構造の容器が必要。ちなみに1992年にはH大学で事故により助手と大学院生の2名が死亡しているケースもある(液体窒素は気化すると体積が650倍になる。そのため酸欠による呼吸不全)。

危険度は天ぷらの油と変わらないよ。いたずらに恐れることはないけど、高温の天ぷら油を扱うつもりで取り扱いは注意してね

とのダニエルの言葉を決して簡単にはとらないように。


液体窒素の使用による料理(?)の最大の効果はテクスチャーの変換にある。視覚で得た情報と味覚で感じた食材のギャップはそれ自体が特別な経験となる。「エル・ブリ」のフェラン・アドリアの得意技でもあるエスプーマ(これを使うと何でもムース状に出来る)の併用もその効果を出すため。

分子料理法

あらゆる料理は物理化学の"式"で表せる。

と言う事実を発見したコレージュ・ド・フランス教授エルヴェ・ティスはその4要素と4つの状態を置き換えて、料理を「想像力あふれる知的ゲーム」と捉えなおす。

食材の状態
G・・・気体
W・・・液体
O・・・油脂
S・・・個体
分子活動の状態
/・・・分散
+・・・併存
⊃・・・包含
σ・・・重層

料理はこれで表せる。

教授自身はシェフではないので、フェラン・アドリアや現在のパートナー、ピエール・ガニェールが彼の理論をコラボレーションによって具現化し、定番を異化する。BRUTUS誌で紹介されている教授のレシピは面白いのだがツッコミどころもあって、半熟卵を作るのに67℃のオーブンで2時間40分も加熱したり、マヨネーズのサラダオイルをバターに置き換えたりしている。それで...

ピエール・ガニェール×エルヴェ・ティスについては「料理王国 2004年5月号」でも特集されている。

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特集の冒頭にある通り、人類は「地球上の食材を食べ尽くし、手持ちのカードがなくなっ」てしまったのかも知れない。しかしダニエル・ガルシアの手法もエルヴェ・ティスの理論も、もちろんフェラン・アドリアの「エル・ブリ」もそんなネガティブな地点からスタートしているのではないはず。イマジネーションだけでもスタイルだけでもない「何か」がきっと彼らを特別でミステリアスな存在にしているのだろう。そして見るもののクリエイティヴィティを刺激する。

料理の写真や詳しい情報についてはBRUTUS誌をご覧ください。

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ただやっぱり気になるのは、人間は本当に「地球上の食材を食べ尽くし」てしまったのだろうか?ということ。謎は尽きない。

投稿者 Kei : May 5, 2005 11:57 PM

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