May 12, 2006

あの人のボナペティ  etc. / 食紀行

ロラン・バルトの天ぷら、イタリア未来派のお国尽くしディナー、アンディ・ウォーホルのキャンベルスープ、谷崎潤一郎の柿の葉鮨、澁澤達彦の反対日の丸パン、マリー・アントワネットのお菓子、小津安二郎のカレーすき焼き...

上は雑誌「芸術新潮」で2002年から2003年まで「あの人のボナペティ」として連載されていた、食べものから芸術家像を再発見しようという実験レポートのタイトルの一部。それぞれのメニューを料理や文学の研究家の協力のもとに検証、再現して見せたのは映画批評家の四方田犬彦。写真とともになかなか面白い連載だった。

ラブレーの子供たちなんて言っているが、僕はこの連載を当時読んでいたわけではない。現代美術をあまり扱わず、どちらかというと「周辺」の記事の方が多い芸術新潮は自分には「趣味が良すぎ」てあまり目に入ってこなかった。(ただの思い込みです)それがこの連載をたまたま見つけてからこの時期のバックナンバーを探してはみたが、なかなか全部は見つからない。

と思っていたら、多少の修正といくつかの断片を追加して『ラブレーの子供たち』というタイトルで昨年書籍化されていました。写真がいくつか削られているのは残念だが。

食べものに興味があって、冒頭に挙げた作家たちに興味がある人には文句なしにお薦め。是非読んでみて欲しい。食べものを考えることはその人を考えることなんだなとあらためて実感する。


書籍版のタイトルは『ガルガンチュアとパンタグリュエル』を著したラブレーからだけれど、なぜここでとりあげられた作家たちが「ラブレーの子供たち」なのか、開高健の章を少し紹介する。

動物の血液というものはもっとも栄養価の高い内蔵であり、中世ヨーロッパの農民にとって欠かすことのできない食材でもあった。16世紀にフランスの作家ラブレーが著した『ガルガンチュア』を読むと、巨人国の王妃ガルガメルがあるときこのブーダンを食べ過ぎて脱腸をおこし、それが原因でガルガンチュアを出産してしまうという、なんとも騒々しくグロテスクな逸話が語られている。

開高健のブーダン・ノワールと豚足

ブーダン・ノワールというのは豚の血を材料としたフランス伝統の黒いソーセージで、韓国のスンデに近い。美食家で知られる小説家開高健の『ロマネ・コンティ・1935年』という短編の中で、そのグロテスクなブーダン・ノワールと生ハムにメロンという関係が、パリに滞在する日本人作家とお上品なスウェーデン人の女性ファッション・ジャーナリストという関係と対称に扱われる。(そしてそのスウェーデン人女性は肉の道へと引き摺り込まれていくのだが...)

冒頭で四方田はこう書いている。

歴史を振り返ってみるなら、多くの芸術家は食いしん坊だった。それは単に食欲の問題である以上に、彼らが生来的に抱いていた、世界に対する貪欲な好奇心に見合っていた。

作品に彼らの食べものへの飽くなき思いが顕れているケースもあれば、一般的な作家像からは想像のつかない作者の背景、個人史に連なる食の記憶まで、ここで取り上げられる断片は様々だが、読後に彼らがより魅力的に感じられたのは言うまでもない。

先に挙げた他には武満徹、立原正秋、明治天皇、チャールズ・ディケンズ、吉本隆明らがとりあげられている。個人的には土方巽、ヨーゼフ・ボイス、スーザン・ソンタグそしてつげ義春あたりに面白いエピソードがないかな?と思うのだけれどどうだろうか。

投稿者 Kei : May 12, 2006 1:08 PM

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